今回は「似水流年」について。
「似水流年」にはいくつかのエピソードがある。前述したように、この歌は嚴浩(イム・ホー)監督の映画『ホーム・カミング(原題・似水流年)』の主題歌である。映画音楽はF・チャンのコネクションで日本人の喜多郎に白羽の矢を立てたが、主題歌が必要になったときに喜多郎にはその時間がなく、フローレンスは喜多郎の了解を得てマイケル・ライに作曲を依頼したのだ。彼は喜多郎が作曲したあるフレーズを膨らませて「似水流年」を完成させた。従って、未だに彼は「私は編曲者としてクレジットされているが、あれは私が作曲したのだ」と主張している。
主題歌を歌う歌手に、フローレンスは人気がうなぎのぼりのアニタを推薦した。ところが、アニタは体調が悪くとてもレコーディングが出来る状態ではなかった。彼女は、その日にレコーディングをしなければサウンド・トラックに入らないというぎりぎりで、病いを押して一度だけ歌った。そのデモ・テープがF・チャンの元へ届けられ、それを聞いたフローレンスはとても感動したそうだ。映画で使われたのはこのテープだ。フローレンスはアニタのCDの発売がずっと先になることを知っていたので、映画の公開に合せて、まず、コンピレーションCDの中に収めて発売した。『梅艶芳似水流年』の中の「似水流年」はアニタが新たにレコーディングをしなおしたバージョンだ。フローレンスはアニタが病気を押してレコーディングした方が悲しさや絶望感がただよっていてよいと思うそうだ。このデモ・テープの歌は、のちに、アニタが亡くなってから発売された明報周刊に付録としてついてきたVCDに収められているので聞き比べることが出来る。
この歌の評判はとてもよくて、第四回香港金像奨の最佳電影歌曲賞(最優秀映画主題歌賞)は確実視されていた。アニタは大きな期待を持って授賞式に望んだが、結果は『少女日記』の「偶遇」が受賞して落胆したそうだ。彼女自身は『縁[イ分]』で最佳女配角(最優秀助演女優賞)に輝いたのだが、そのことよりも主題歌賞を取れなかったことのほうを残念がっているようなラジオのインタビューがある。良くも悪くも、この歌はアニタのシグニチャー・ソングのひとつになった。
- 2006/12/11(月) 15:33:05|
- 梅艶芳
-
-
| コメント:0